ドリアン助川さん『全て移り変わる中で生き続けるいのち・作品』

2017年度企画展「みえるような、みえないような」関連イベントとして、ドリアン助川さんにお越し頂き、講演会「形なく、時がある」を開催しました。
ドリアン助川さんの著作「あん」を書くにいたった理由をご自身の人生を交えて深く・楽しくお話し頂きました。高校時代を愛知県で過ごされたドリアン助川さんですが、高浜市は“初上陸”されたとのこと。かわら美術館や展覧会の印象、表現や芸術についてお話し頂きました。

——高浜港駅から歩いて当館にお越し頂きました。高浜の印象を教えて頂けますか。

(ドリアンさん・以下略)高浜港駅から美術館まで歩き、様々な鬼面・鬼に出会い、面白いと感じました。振り切れた感のある鬼のモニュメント。それを作り出す人の手や表情を想像しました。全国各地で街おこしが行われています。北海道にある、絵本の里けんぶち町や世界的に有名になった山形国際ドキュメンタリー映画祭のように、その土地の人々の心で素直に発想したアイデアと、愛情ある行動が街を彩るのだと思います。
高浜で出会って印象深い‘鬼’。
人が恐れを持つものは、日常から遠ざけられるものだけど、高浜では道で‘鬼’に出会うおもしろさがありましたね。世界鬼フェスティバルとか開けるのではないでしょうか。

——作家や朗読家として活躍し、国内だけではなく海外でもご講演をされている思いますが、美術館での講演は初めてと仰っていましたね。

はい、初めてでした。

——美術館はお好きですか。美術館はドリアンさんにとってどういう場所でしょうか。

好きです。海外に行って、街にある美術館に行くのも好きですし、日本でも美術館はどこに行ってもおもしろい。地方の美術館もとても充実していると思います。
美術館で作品を観て、人間の可能性に気付くときがあります。スポーツ鑑賞でも同じですが、人間がここまで出来るのか、と圧倒される。美術館はそういう作品に出会える空間です。

——ご来館頂いた企画展「みえるような、みえないような」で、アール・ブリュットを始め、様々な作品を鑑賞頂きました。いかがでしたか。

おもしろかったです。まだ誰も経験したことのない実験的な場所という意味で、アートの辺境というか…。学芸員の方が自分の言葉でたくさんの作品を語ってくれました。展覧会に対する熱意を感じました。時間と熱意が注がれたものは力があります。創作する立場で作品を観ると、そのアイデアは思いつかなかった!と感じた作品もありました。

——おもしろい!と言って頂けてうれしいです。講演では、展示作品のいくつかについて感想をお聞かせ頂きました。その際、他者の日常を切り取った作品については、その意図を汲み取る必要があると仰っていましたね。

そうですね。他者の日常は神聖な領域です。それを作品化するには、その人の行動意図への配慮が必要ではないか、と思います。
表現が全てアートなのか。僕の中では、ある程度の線引きがあります。その線引きも人それぞれでしょう。例えば、作品の展示意図を書いて、観た人の声を聞く、コールアンドレスポンス(call and response)が美術館にあってもいいかもしれないですね。

——コールアンドレスポンス ― 美術館と観覧者の対話はとても興味深いアイデアです。私たちは、 ドリアン助川さんに講演タイトル「形なく、時がある」をある意味一方的にお渡ししました。

講演タイトルを決めて渡されることはあまりありません。最初にこのタイトルを聞いて、原始仏教的な視点を持った話になるだろうと思いました。

——ご講演は、小説「あん」の制作秘話を始め、ご自身の人生と表現、人間の生きる意味についてお話し頂きました。今一度、講演タイトル「形なく、時がある」を聞いて何を思いますか。

今、このタイトル「形なく、時がある」を聞いて、先日、自身の人生や命を考えた時、先に去ったひとを想ったことを思い出しました。
今はいない人、形ないものを想う。僕たちの肉体という命は有限なのだけれど、その人と過ごした時間は生きている。『時がある』という意味ですが、仏教的には時間は円環していると捉えることもできます。僕の作品が読み継がれたら、それが僕の第二の命と言えます。時に縛られないもうひとつのいのちです。万物流転、全て移り変わる中で生き続けるいのち・作品があるのは嬉しいことです。
そういう意味では、タイトルは逆でもよかったですよね。「形ある、時がない」って。

講師:ドリアン助川(作家・朗読家)

1962年東京生まれ。バンド「叫ぶ詩人の会」、ラジオパーソナリティとして活躍。 ニューヨーク滞在中に 9.11のテロを現場で体験。ハンセン病を背景にした「あん」(ポプラ社)は 2015年に映画化され、国内外で高い評価を得てる。近作に「あなたという国 ニューヨーク・サン・ソウル」(新潮社)、「星の王子さま」(皓星社)。2017年、小説『あん』がフランスの「DOMITYS文学賞」と「読者による文庫本大賞(Le Prix des Lecteurs du Livre du Poche)の二冠を得る。