永瀬正敏写真展《bloom》Masatoshi Nagase Photographic works in TAKAHAMA

映画を中心に国内外で活動する俳優であるとともに、写真家としても長いキャリアを持つ永瀬正敏さん。新型コロナウイルス感染症が猛威をふるう合間を縫い、2020年3月と9月に高浜や周辺地域を訪れて、街や人々のありのままの姿を撮影していただきました。
高浜で培われてきた技術を磨き守り伝える、菊人形師 ※1 や鬼師(鬼瓦職人)をはじめ、何気ない風景や人びとの日常を、写真家独自の視点で捉えた作品が生まれました。

2021年初旬より緊急事態宣言が出され、会期中に永瀬さんが高浜を訪れることは叶いませんでした。当初、開幕初日に計画していたトークイベントも延期となり、展覧会最終日の3月21日に、オンラインでトークイベントを実施することができました。
永瀬さんの情感に満ちたまなざしから生み出された作品や、撮影の様子などについてお話しいただきました。

——作品を拝見して、こんなに素敵で味わいのある風景が高浜にあったのかと思ってしまいました。撮影の際は、高浜をどのように見せたいというお気持ちだったのでしょうか。

(永瀬さん・以下略)どう見せたいというよりも、元々高浜市が持っているポテンシャルを僕なりに感じた切り口で、シャッターを押していきました。伝統を引き継いでいる街は、何気ない場所でもそういう「におい」がするんですよね。例えば、古いタバコ屋さんの佇まいひとつにしても、僕はそのにおいを感じました。
それを高浜の皆さんはもちろん、より多くの皆さんに見ていただければいいなあと思ったんです。

永瀬正敏写真展《bloom》Masatoshi Nagase Photographic works in TAKAHAMA - 高浜市かわら美術館

——なぜ写真展のタイトルを《bloom》と付けられたのでしょうか。

高浜の印象が、炎の色に近かったんです。
灰色や銀色などの瓦になる前の、土が焼かれる時の熱量、つまり窯の中の炎のイメージが、僕の中に凄くありました。街がもつ強さや想いは、この炎の赤色に表れているのではないかと思いました。
メインビジュアルになっている、傘を広げて撮影した作品は「咲く(《 bloom 》)」というタイトルです。街の印象である炎の赤色から連想して、赤い花につながり、赤い何かが咲いていくという想像が広がって、赤い傘というイメージが湧いてきました。
おこがましいですが、まだまだ咲き誇っていってほしいという、高浜の未来へのエールも含めています。そして、世界が大変な時期なので、未来には必ず希望の花が咲くだろうという意味も込めて、展覧会タイトルを「永瀬正敏写真展《bloom》」としました。

永瀬正敏写真展《bloom》Masatoshi Nagase Photographic works in TAKAHAMA - 高浜市かわら美術館

——3月にお越しいただいた時の天気は雨で、《 bloom 》を撮影された9月7日も雨が降っていました。

9月は、とんでもない雨でしたね。
僕の映画の先生である相米信二監督 ※2 は、雨というモチーフを主人公の何かのメタファーとして描くんです。その影響もあるかもしれないですが、僕は雨が凄く好きです。モチーフの表情が少し変わり、艶っぽくなったりするので。仕込んでもそういう写真は撮れないので、贈り物が降ってきたと思って撮りました。

——市民や鬼師(鬼瓦職人)の方々をモデルにした《hope for the future 2020 #01~#05》。あえてマスクを着けて撮影されました。

このシリーズは、ちゃんと今を見つめて撮っておきたかった。残しておきたかった。
皆さんにマスクをしていただきましたが、それはネガティブな意味ではなくて、希望に変える、変えていきたいという思いを込めています。
写真展が開催される頃には、皆がマスクを取っていてほしいと思って撮影していたのですが、もうちょっと時間が掛かりそうです。

永瀬正敏写真展《bloom》Masatoshi Nagase Photographic works in TAKAHAMA - 高浜市かわら美術館永瀬正敏写真展《bloom》Masatoshi Nagase Photographic works in TAKAHAMA - 高浜市かわら美術館

——若手の鬼師さんにお会いになっていかがでしたか。

今までずっと守られてきた伝統を、若い世代の方々がちゃんと引き継いでいらっしゃる姿をみて、本当に嬉しかったですね。お話ししていると、伝統を引き継ぎながら、新しいアプローチでもう一度伝統を再認識してほしいという思いをひしひしと感じて、嬉しくなりました。

——撮影を通して受けた、高浜の印象はいかがでしょうか。

刺激をいただきました。伝承する大切さを改めて感じました。
伝統を受け継いでいる街に、また伺いたいと思いましたし、色々な方に来ていただきたいとも思います。伝承を支える土台がある街というのは、本当に素敵だなと思いました。

——市民のみなさんにメッセージをいただけると嬉しいです。

カメラレンズを通して、自分の中に凄く大きいものをいただいたような気がします。今回の作品は、自分の中でずっと大事にしていきたいと思います。そして、また高浜を訪れて、じっくり写真を撮らせていただいたり、色々な人とお話しさせていただいたりしたいです。
今回は、展覧会の会期中に伺えなかったことが本当に心残りです。いつの日かリベンジして、皆さんと直接お会いできるように願っています。

2021年3月21日 オンライントークイベントにて(抜粋)

※1 菊人形師
菊の花や葉を用いた衣装を着せた、等身大の人形「菊人形」を制作する職人。
※2 相米信二監督
1980年代より、ヒット作を世に発表し続けた映画監督。永瀬正敏デビュー作『ションベン・ライダー』(1983年)を制作。